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宮崎地方裁判所都城支部 昭和42年(わ)22号 判決 1967年6月15日

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中二〇日を右の刑に算入する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

第一罪となる事実

(本件犯行に至るまでの経過)

被告人は、昭和四〇年一一月頃からジューキミシン株式会社都城営業所の外交員として勤務しているうち、同営業所事務員M子(本件各犯行当時二一才)に心をひかれ、妻帯の身でありながら、同年一二月末強引に肉体関係を結んで以来(その間被告人は同社を退職)、M子と情交関係を重ねていた。そして、被告人は、同四一年一一月には妻H子と別居してM子と同棲するまでに至ったけれども、H子が姙娠していたことなどから、約半月後には同棲生活を解消し、再び妻H子と同居することになった。しかし間もなく妻H子との仲も破綻し、同年一二月下旬H子が離婚手続をして実家へ帰ってしまってからは、やもめ暮しをしているうちに、M子に強く未練を感じ、M子を妻とすることを熱望するようになり、同四二年二月頃にはM子の実家に再三おもむいて結婚を申し込んだが、その都度M子の母親から断られた。

このようにして、被告人は、なおM子に対する執心を捨て難く、思案に余っていた。

(罪となる事実)

一  被告人は、M子に直接会ってその真意を確めようと考え、同四二年四月五日M子を勤務先から呼び出し、同日午後九時頃、都城市牟田町一一街区五号サロン「いとはん」においてM子に真意をといただし、夫婦となることを懇願したが、M子は終始沈黙し、はっきりした態度を示さなかった。そこで被告人は、M子に対し、煙草に火をつけてくれと頼んだところ、M子がこれに応ぜず、被告人を全く無視した態度をとったことにいら立ちをおぼえ、M子の関心を引きつけるため、みずからマッチで煙草に火をつけたのち、まだ燃えているマッチ棒をとっさに隣席に座っていたM子の右膝にこすりつけて焔を接触させた。そのため、M子は、全治約一週間を要する右膝部第二度火傷の傷害を負った。

二  被告人は、前記一の犯行後、前記サロン「いとはん」から乗用車で、同市甲斐元町一二街区四号の自宅にM子を連れていき、同日午後一〇時頃、居間兼寝室の自室(四畳半)において、被告人の友人の家に話合いのため来たものと思って上り込んだM子と対面しているうち、M子の冷淡な態度からもはや合意では不可能と考え、この上は強いてM子を姦淫しようと決意した。そこで、被告人は、ベッドの横に立っていたM子の顔面に頭突きを加えてM子をベッドの上に転倒させ、その上に乗りかかって手拳でその顔面、腹部を一回ずつ殴打し、その反抗を抑圧しパンティを引き脱がし、強いてM子を姦淫した。M子は、被告人の右暴行により、全治約一〇日を要する顔面打撲症、脳震盪症の傷害を負った。

第二証拠の標目≪省略≫

第三法令の適用

被告人の判示所為中、一の傷害の点は、刑法二〇四条罰金等臨時措置法二条一項三条一項一号に、二の強姦致傷の点は、刑法一八一条一七七条に、それぞれ該当するところ、所定刑中一の傷害の罪につき懲役刑を、二の強姦致傷の罪につき有期懲役刑を、それぞれ選択し、以上の二罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文一〇条により重い強姦致傷の罪の刑に同法一四条の制限内において法定の加重をし、なお犯情を考慮し、同法六六条七一条六八条三号により酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条により未決勾留日数中二〇日を右の刑に算入する。訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により、全部被告人に負担させることとする。

(判示一の行為につき常習傷害を認めなかった理由)

被告人の判示一の行為について、本件公訴事実は、被告人が常習として傷害行為をなしたものとし、右が暴力行為等処罰ニ関スル法律一条ノ三の常習傷害にあたるというのである。なるほど被告人に対する当庁昭和三七年(わ)第四九、五〇号事件判決謄本および都城簡易裁判所昭和三九年(い)第九二号事件略式命令謄本によれば、被告人は、昭和三七年五月二一日暴行、恐喝等により懲役一年(三年間執行猶予)および罰金三、〇〇〇円に、同三九年四月二八日傷害罪により罰金一万円にそれぞれ処せられたものであること、≪証拠省略≫によれば、同四一年七月頃職場の慰安会で酔余乱暴を働き、同四二年三月初め頃、街路で偶然出合ったM子の顔面を平手打ちにしたことがある事実がうかがわれるうえ、判示二の強姦致傷の手段結果をもあわせ考えるときには、被告人は暴力行為を反復累行する習癖を有する者であるといえないこともない。しかしながら暴力行為等処罰ニ関スル法律一条ノ三の常習傷害は、暴力行為を反復してなす習癖を有するものがその習癖の発現として人を傷害した場合をいうものと解すべきところ、判示一に認定したとおり本件は特殊な男女関係のもつれに起因する偶発的な犯行であり、その動機態様も、前判示のとおり、従前の暴行々為のように、相手に積極的に攻撃を加えるというよりは、むしろ、衝動的に相手の関心を自分にひきつけようとしたことに主眼があったと認められることから判断して、被告人の暴力行為の習癖の発現としてなされたものと認めることはできず、その習癖とは無関係になされた単純な傷害と認めるのが相当である。したがって暴力行為等処罰ニ関スル法律一条ノ三には該当しない。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 堀口武彦 松村恒)

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